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劇団鹿殺し本公演「傷だらけのカバディ」感想文

ネタバレ注意です!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

劇団鹿殺し本公演「傷だらけのカバディ」観劇いたしましたので、取り急ぎ簡略な感想文を書きました。

出演者の内藤ぶりちゃんからご紹介いただいて、恥ずかしながら今回初めての鹿殺し観劇だったのですが、これは次回の公演もまた観たいと心から思いました。面白かったです。

カバディ、私は正直漫画「銀魂」で画面の端でたまに山崎がやってるやつ、という知識しかなかったので、今回でカバディのルールが知れて大変興味深く感じました。

カバディは行って帰ってくるスポーツなんですね。自分の陣地と相手の陣地に明確な境界線があり、その線を自分の体で明確に越えることによって得点が入る。

アフタートークで「カバディは常に帰り道のことを考えるネガティブなスポーツ」という話がありましたが、これまでの歴史の中に存在している物語のほとんどが「帰りたい」物語であると私は考えています。帰りたいと思うことは、そんなに後ろ向きなことではないように思います。

これは大学時代受けていた講義の受け売りですが、物語というのは必ず内と外があって、たとえば「桃太郎」なら、おじいさんとおばあさんに育ててもらった家《内》を出て鬼ヶ島《外》に行き、鬼を倒して金銀財宝を手に家《内》に帰ってくるという物語、逆に「かぐや姫」なら、月《外》からやってきて竹取翁によって拾われ《内》、そしてまた月《外》に去っていく物語です。

そしてこの講義で教授は、この物語の構造から、「帰るべき内側を失ったのが近代以降の文学」っていうようなことを言っていたと思います。私も地方出身で上京した両親のもとに生まれて東京を転々とする生活で、故郷はないですし、私の人生に、どこかへ帰っていく解決チックなものは望めないなというのは薄々感じながら生きているので、この内容には概ね同意です。

「傷だらけのカバディ」はもう帰れない大人たちが最後にしっかり帰ってきたっていう、現代人にとって夢のような作品になっていました。

東京オリンピックの開催された2020年と、その10年後である2030年の二つの時空を行き来するスタイルの作品になっていて、かつて一緒にカバディでオリンピック金メダルを目指し切磋琢磨しあった8人の仲間たちが、10年間のあいだに全員すっかり帰るところを無くしてしまっている。そのうえ、10年前、練習のモチベーションのためにマネージャーのノートに綴った『夢』を、誰1人叶えられずにいた。

……ように見えて、実はみんな10年前の時点でそれを無意識のうちに手にしていたことに気付いていないだけだったんじゃないか、というふうに見えました。

最後にライオネルのメールが、個人の皆の夢を叶える方法だけは示唆してくれていたけど、なぜ記憶を失う前のライオネルがそのメールを送ったか、なぜ自殺したタワシが弟に送った(?)写真の裏にあんなメッセージを残したのか、は、2人がもう既にそのことに気付いていたからではないか。10年後、復讐するという名目で、賠償金を得るために彼らは再会を果たしますが、そこにあったのは復讐や金銭的解決ではなく、帰るべき場所がお互いの存在、絆であったことへの気づき、でした。

さっきも内と外の物語の話をしましたが、私がこれを観て一番思い出したのは「オズの魔法使い」です。

あれはうちに帰りたい物語で、ドロシーはうちがあるのでうちに帰れるんですが、「傷だらけのカバディ」に登場する大人たちはもう失敗が多すぎて、あの頃は持っていた帰る家、夢とか、知識とか正直さとか、名声とか、期待とか、ひいては命すら、失ってしまっている。でも大抵の人は帰れるところがあるのなんて子供の頃だけで、大人になるとこんな風にして自分が帰着しなきゃいけないところなんか、見失ってしまっている場合がほとんどだし、究極的にはそれは自分で作り出さなきゃいけないものだったりもすると思うんですよね。

でも、人生がめちゃくちゃになっているように見える鹿神セブンのメンバーたちは、10年前にそれを絆という形でもう作り置いてきているんです。彼らが忘れてしまっているだけで。

皮肉にも死んでしまったタワシと記憶を亡くしてしまったライオネルだけは、そのことを寸前まで覚えていて悔やんでいるという構造がまた憎いですね。今日を生きるのに必死な人間は、そんなことにかまっちゃいられなくなるから。

ライオンは旅の中で勇気を、ブリキの木こりは旅の中で感情を、カカシは旅の中で知性を、気付かないうちに、得ていました。通じるものを感じるなあと思います。キャラクターにもライオンとロボットがいますが偶然ですかね?

急に話が逸れますが、この時代になってもまだ前時代的なホモフォビックな脚本も多く見受けられる中、ロボコップの描写に関しては非常に愛があり感激しました。ゲイであることと、トランスジェンダーであることと、性別越境する意思の有無の3つの観点を混同しているように見える描写も正直ありましたが、それ以外に関してはヒヤヒヤせずに観られたのでとても良かったです。アイラの兄の自由のために父の面倒を見ようと決意した姿にも切なくてグッときました、インドに行くラストもおかげで効いていました。

最後えらそうなことを言いましたが、本当に最初から最後まで楽しませていただきました。もう一回行きたかったです、お金さえあれば……。また次の公演も楽しみにしています。

 

2019.11.27みやかわゆき